「アルコール性うつ」について書いてみます。アルコール依存ではないのでお間違えなく。
あまり人口に膾炙した表現ではありませんが、飲酒によって「うつ」になっている患者さんは少なくないです。お酒の主成分はご存知の通りアルコールですね。
|アルコールの直接作用|
アルコールは脳の前頭葉の活動を低下させる薬物です。これによる浮遊感や脱抑制感、さらには酩酊感といった感覚を楽しむのだと思います。
飲酒下では解放感だけでなく、喜怒哀楽の感情の統制が困難となります。笑い上戸、泣き上戸、怒り上戸、といった言葉に表されるように。
|アルコールの分解産物と代謝に必要なもの|
アルコールが分解され、アセトアルデヒドができます。
これは結構な刺激物で、匂いを嗅ぐとむせるような代物です。飲酒により毒劇物が体の中で作られているわけです。アセトアルデヒドのために飲酒すると顔面が紅潮し、二日酔いや頭痛が引き起こされるとされています。
アセトアルデヒドがさらに分解されて酢酸になり、それから水と二酸化炭素になります。
分解物の毒性だけでなく、アルコールを分解するためには体内のビタミンB1、タンパク質、亜鉛などのミネラルなどが消費されます。
また、アルコールは強力な利尿作用を通じて脱水状態を引き起こします。
アルコールや代謝産物、代謝により失われるミネラルなどの欠乏、脱水その他により、二日酔いに代表される脳機能の低下が起こります。
|睡眠とアルコール|
アルコールには麻痺作用があり、入眠までの時間を短くしますが、アセトアルデヒドには覚醒作用があるため、深い眠りが減り、浅い眠りが増え、全体としては睡眠時間は減り、眠りの質も悪化します。
つまり「眠れないから飲酒する」のは、より睡眠不足を悪化させる行為です。
そして睡眠不足が脳機能の低下を招くのは言うまでもないことです。
|脳機能の低下|
脳機能が低下した状態は、二日酔いを自覚していない程度でもパフォーマンスを低下させ、
判断力の低下、コミュニケーションの齟齬などを引き起こし、日常生活や仕事上の失敗を引き起こします。さらには脳機能の低下そのものも「うつ状態」を引き起こします。
にもかかわらず、小さなん変化の積み重ねであることから自分ではその病的さに気が付きません。
|薬物療法の妨害要因|
アルコールは薬の代謝にも関わり、その効果を損ねたり、代謝を阻害することにより思わぬ副作用を生じることがあります。
そもそも薬の開発においては除外される要素なので、アルコールと薬物を併用すれば、薬が期待通りの効果を発揮することを妨害します。
アルコールも向精神薬も脳機能に作用する薬物なので、併用すると特にがいが大きいです。
以上の事から、アルコールがうつ状態を引き起こす、少なくとも悪化要因となっていて、「アルコール性うつ」があるよ、という話。
かてて加えて治療も邪魔するよ、というお話でした。
今日はここまでにいたしましょう。続きます。